不貞行為とは、配偶者以外の異性と自由な意思で肉体関係(性行為)を持つことをいいいます。不貞行為は法定離婚事由(民法770条1項)に該当し離婚の原因となります。また、不貞行為の存在は不倫慰謝料を請求できる条件でもあります。
不倫慰謝料を請求された場合は不貞行為の有無がポイントになります。日常的な言葉である浮気と違い、不貞行為は法律上定義があります。そのため、具体的な行為のうち不貞行為とされるのがどこからかは裁判上も争われます。
坂尾陽弁護士
この記事では以下のような悩みについて、不倫慰謝料に詳しい弁護士が実務経験・裁判例に照らして徹底的に解説します。
- 不貞行為とは? 不貞行為の定義は?
- どんな行為が不貞行為になるの?
- 不倫でキスしただけでも不貞行為になる?
- ライン(LINE)は不貞行為の証拠になるの?
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

Contents
不貞行為の定義
不貞行為とは、既婚者が配偶者以外の異性と自由な意思で肉体関係(性行為)を持つことです。したがって、原則として、肉体関係(性行為)がなければ不貞行為の定義には当てはまりません。
もっとも、不貞行為の定義に当てはまらない行為でも、具体的な事情によっては不倫慰謝料の請求ができるケースもあります。たとえば、不倫相手にキスをするだけでは不貞行為の定義には当てはまりません。しかし、キスをするだけでなく、「奥さんと別れて欲しい」と別居や離婚を要求したときは、一連の行為が違法と判断されて不倫慰謝料が認められる可能性があります(参考:東京地裁平成20年12月5日判決)。
不倫や浮気との違い
不倫や浮気と不貞行為の違いですが、不倫は不貞行為とほぼ同じと考えられます。但し、ハグやキスだけの不倫やプラトニック不倫もあるため、やや不倫の方が不貞行為よりも広い概念です。
浮気と不貞行為の違いは、浮気は必ずしも婚姻関係がある場合に限られません。恋人や婚約者が居る場合の浮気は、不倫や不貞行為とは言われません。
つまり、浮気(恋人・婚約者の場合も含まれる)>不倫(肉体関係がない場合も含まれる)≧不貞行為という関係になります。
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不貞行為にどんな意味や効果があるか
不貞行為になるかどうかは、法律上、大きな意味があります。不貞行為になると以下のとおり2つの効果が生じます。
- 法定離婚事由であるため不貞行為の被害者が離婚を請求できる
- 不貞行為の当事者は、被害者に対し不倫慰謝料を支払う義務が生じる
不貞行為の時期が重要な意味を持つ場合
また、不貞行為の時期も法律上大きな意味を持ちます。なぜなら、婚姻関係破たんと不貞行為の開始時期の先後関係によっては慰謝料請求が認められなかったり、不貞行為の時期が時効との関係で問題になったりするからです。
裁判においては、不貞行為の定義にあてはまるかだけでなく、不貞行為がいつから始まったかを巡って、どこからが不貞行為かが激しく争われることも少なくありません。
つまり、不貞行為になるかどうかやその時期は、法律上の責任が生じるかどうかを決める意味があるのです。そこで、具体的にどのような行為が不貞行為になるかの判断基準を説明します。
不貞行為はどこから? 具体的な行為ごとに解説!
ここでは不倫慰謝料が問題になった裁判例等に照らして、不貞行為はどこから認められるのかを具体的案行為ごとに解説します。
異性との肉体関係が不貞行為になる場合とならない場合
配偶者以外の異性と肉体関係(性行為)を持つことは不貞行為の定義にズバリ当たるため不貞行為に該当します。なお、肉体関係(性行為)を持ったのが1回だけの場合でも不貞行為に該当して慰謝料請求ができます。もっとも、この場合は離婚までは認められないこともあります。
性交類似行為は不貞行為になるか
肉体関係のうち性行為にはならない性交類似行為(フェラチオ、クンニ、ペッティングや愛撫等)も不貞行為に該当する可能性が極めて高いです。実務上は、性交類似行為があった場合は性行為もあったと推認して不貞行為ありと判断されるでしょう。
枕営業や売買春は不貞行為になるか
ホステスが既婚者と枕営業のために肉体関係を持った場合や売買春が不貞行為になるかは判断が分かれます。東京地裁平成26年4月14日判決は、枕営業の場合に不倫慰謝料の請求を認めませんでした(いわゆる「枕営業判決」)。
強制性交等(強姦)と不貞行為
なお、不貞行為の定義は「自由な意思により肉体関係を持ったこと」です。したがって、強制性交等(強姦)の被害者は、自由な意思で肉体関係を持ったわけではないので不貞行為に該当しません。もっとも、強制性交等(強姦)の加害者は不貞行為に該当するかに関わらず慰謝料の支払義務が生じることは言うまでもありません。
ラブホテルの出入りは不貞行為になるか
一緒にラブホテルから出入りした場合は、原則として不貞行為が認められます。実務上は、肉体関係(性行為)を立証する客観的な証拠がないことから、ラブホテルの出入り等が立証できれば「肉体関係(性行為)があったはずだ」ということで不貞行為が認定されます。
ラブホテルに入ったものの何もしていないという主張
ラブホテルに入ったのは落ち着いて話をするためで何もしていないという主張は基本的に認められません。その主張は不合理な弁解であるとして慰謝料請求が認められる裁判例がほとんどです。
なお、糖尿病のため性的不能であったと認められた事案について、不倫慰謝料の支払義務があるとした裁判例もあります(東京地裁平成25年5月14日判決)。
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一緒に旅行したことは不貞行為になるか
一緒に旅行したような場合、どこから不貞行為になるかが具体的に事情により異なります。例えば、何人かで旅行に行った場合や出張等で旅行に行った場合は不貞行為があったと認められる可能性は高くありません。
これに対し、配偶者に隠して一緒に旅行し、旅行先では別々の部屋に泊まったようなケースでは、不貞行為と認められる可能性も高いように思われます(参考:東京地裁平成22年1月28日判決、東京地裁平成19年5月31日判決)。
親密な交際は不貞行為になるか
キスだけの不倫やメールのやり取りのような親密な交際は不貞行為に原則として該当しません。
しかし、キスに加えて別居・離婚を要求した事案や性行為はなかったものの下着姿で抱き合った事案について不倫慰謝料の請求が認められる場合もあります。
また、愛情表現を含むメールについて慰謝料請求を認めた裁判例もあります(東京地裁平成24年11月28日判決)。さらに、親密なメールの送信自体ではなく、そこから肉体関係(不貞行為)が推認される場合もあります。
不貞行為があっても慰謝料請求が認められないケース
不貞行為がある場合でも慰謝料請求が認められない場合もあります。ここでは、不倫慰謝料を請求された側が不貞行為があっても慰謝料を払わないためにどのような反論が考えられるかを説明します。
(参考)慰謝料請求できる条件とは? 具体的な条件や請求方法から請求できないケースまで徹底解説
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婚姻関係が破たんしていた場合
不貞行為に基づく慰謝料請求を請求できる条件は、不貞行為に基づいて円満な夫婦関係が破壊されることです。したがって、不貞行為の開始時点において、夫婦関係が破たんしていた場合は、「不貞行為によって円満な夫婦関係が破壊された」と言えないので慰謝料の請求は認められません(最高裁平成8年3月26日判決)。
時効が成立している場合
不貞行為の時期から時間が経過している場合、時効が成立して慰謝料請求が認められない場合があります。例えば、不貞行為がバレてから3年以上が経過しているときは時効が成立したと主張できる可能性が高いです。
時効が成立するかは以下のような具体的事情によって異なります。不貞行為で慰謝料を請求されて、時効が成立していると反論したい場合は弁護士にご相談ください。
- 不貞行為の時期がいつからいつまでか
- 不貞行為の被害者がどこまで事情を知っていたか
- 不貞行為後に夫婦が離婚することになったか
既婚者と知らなかった場合
不貞行為時に既婚者だと知らなかった場合は慰謝料の支払義務はありません。不法行為に基づく慰謝料請求は民法709条が根拠となりますが、民法709条は加害者に故意・過失があることを要求しているためです。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
不貞行為の有無を争える場合や、不貞行為があっても慰謝料を請求できる条件を満たさない場合は、慰謝料の支払拒否や減額交渉が成功する可能性が高いです。このような場合は、慰謝料を請求された事案に強い弁護士に一度相談することをおすすめします。
不貞行為の証拠にはどんなものがあるか?
不貞行為を直接証明する客観的な証拠はないことが多い
不貞行為を客観的に証明することは簡単ではありません。不貞行為の直接的・客観的な証拠は、肉体関係(性行為)を撮影・録画した写真・動画のみだからです。したがって、このような写真・動画がない場合は、色々な証拠から不貞行為があったと推認することになります。
不貞行為を推認させる証拠について
不貞行為を推認させる証拠としては、以下のようなものがあります。どこまで証拠が必要かは具体的に判断することになります。不貞行為の証拠について不安や悩みがあれば、弁護士に相談しましょう。
- 探偵による調査報告書
- 不倫を認めた録音データや謝罪文
- ホテルを利用した領収書やカード明細
- お互いのやり取りに関するメール・LINE
(参考)不倫の証拠にはどんなものがある? 不倫・不貞行為の有力な証拠や注意点等を徹底解説
探偵の調査報告書がなくても不貞行為が認められるケースもあります。最初に弁護士に相談せずに探偵に依頼すると、他の証拠に照らして探偵の調査報告書が不要だったり、他の証拠で足りない肝心な部分が探偵の調査報告書で抜けていたりすることもあります。最初は弁護士に相談し、弁護士から探偵の調査報告書が必要か等にアドバイスを受けるようにしましょう。
ライン(LINE)を不貞行為の証拠とする場合
最近は、不倫のやり取りをライン(LINE)ですることが増えています。不貞行為の証拠としてライン(LINE)のやり取りも有力なものです。
しかし、ライン(LINE)のやり取りは、不貞行為の表現が曖昧なことも多いです。例えば、「気持ち良かったね」と発言していても、全体のやり取りを見ないと性行為が気持ち良かったとは認められないことも多いです。したがって、ライン(LINE)が不貞行為の証拠になるかは慎重な検討が必要です。
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不貞行為の慰謝料相場や増減事由
不貞行為が認められると、不貞行為をした配偶者及び不貞相手は慰謝料を請求されます。
不貞行為の慰謝料では200万円~300万円程度の請求がされることが多いです。慰謝料の請求金額は自由に決めることができますし、最初の請求金額が交渉のベースラインになるため最初はやや高額な請求がなされます。
高額な慰謝料請求をされた場合は、慰謝料の減額交渉を行うことができます。そこで、不貞行為の慰謝料相場や増減事由が問題になります。
不貞行為の慰謝料相場は50万円~300万円
不貞行為の慰謝料は計算式があるわけでなく、裁判所が諸事情を考慮して決定します。具体的には以下のような事情が考慮されます。
- 夫婦関係の婚姻期間、子どもの有無、円満であったか等
- 不貞行為の期間・回数やどちらが誘ったか
- 不貞行為によって夫婦が別居・離婚したかやり直すのか等
- 加害者側からの反論がどの程度認められそうか
特に、不貞行為後に夫婦がやり直す・別居する・離婚するとどのような影響を受けたか、不貞行為の期間・回数は大きなポイントになります。
不貞行為が短期間(3か月程度)であれば離婚に至った事案でも50万円~100万円程度の慰謝料になることもあります。他方で、不貞行為が長期間であり、その結果として離婚に至った場合は200万円~300万円程度の慰謝料が認められることになります。
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慰謝料の減額事由と増額事由
不倫慰謝料の交渉において、よくある慰謝料の減額事由と増額事由は以下のとおりです。
慰謝料の減額事由
- 夫婦が別居・離婚しておらずやり直すつもりである場合
- 不貞行為の期間・回数が少ない(3か月以内程度が目安)
- 不倫関係に消極的であった
- 求償権を放棄してでも慰謝料を減額したい
慰謝料の増額事由
- 不貞行為が原因で円満な夫婦関係だったのに離婚することになった
- 夫婦間に未成年の子どもがいる
- 不貞行為を理由として妊娠した
- 再度の不貞行為である場合
ここには代表的な事由のみを記載しており、法律相談で弁護士が具体的に話を聞いてるうちに意外な事実が分かって慰謝料が大きく変わることもあります。あなたの事案における慰謝料相場や慰謝料の増減事由については、弁護士に相談することをおすすめします。
不貞行為の定義を踏まえて具体的に判断する
この記事では不貞行為について以下の点を説明しました。
- 不貞行為とは異性と自由な意思で肉体関係(性行為)を持つことを言う。
- 性交類似行為やラブホテルの出入りも不貞行為が認められる可能性が高い
- 不倫であってもキスや親密な交際では原則として不貞行為にならない
- 不貞行為の証拠にライン(LINE)を使う場合の注意点
原則として、不貞行為=肉体関係(性行為)です。しかし、実務上は具体的な事情によって不貞行為と認められる場合や認められない場合があります。あなたの事案について、どこからが不貞行為か悩んだときは弁護士にご相談してください。
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