接触禁止条項の違約金相場を知っていますか?
不倫問題を解決するときに示談書において接触禁止条項を定めることがあります。しかし、接触禁止条項とは何か、どのようなメリット・デメリットがあるのかを知らないと思わぬ損をします。
この記事では、接触禁止条項の意味や役割、文例、違約金の相場や拒否できるか等を弁護士が分かりやすく解説します。この記事だけ読めば接触禁止条項の全てが簡単に分かりますので最後までお読みください。
坂尾陽弁護士
とくに不倫慰謝料について、以下のような点をご相談いただくことは多いです。この記事では以下についても解説していますので、是非、参考にしてください。
- 接触禁止条項とはどんな意味があり、どんな接触が禁止されるのか?
- 連絡1回につき100万円の違約金は相場通りか?
- 高額すぎる違約金でも約束した以上は払わないと駄目なのか?
- 接触禁止条項は拒否できるか
- 接触禁止条項の文例が知りたい
- 離婚後も接触は禁止されるのか
- 社内不倫のため業務上連絡を取る必要があるがどうしたら良いか?
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

Contents
接触禁止条項とは
不倫で問題となる接触禁止条項とは、不倫をした配偶者と不倫相手が接触することを禁止する示談書の条項です。
具体的には、示談書において、不倫相手が配偶者と直接会ったり、電話・メール・LINEで連絡を取ったり等の接触をしないことを約束するものです。
同時に、接触禁止条項に違反して接触をした場合には違約金を支払う旨も定められることが大半です。
接触禁止条項の役割
慰謝料が支払われても、示談後に不倫が再開するリスクがあります。
そこで、示談書において不倫が再開した場合の違約金を定めることがあります。しかし、不倫の立証は困難であるため、「会ったけど不倫はしていない」と言われると不倫の違約金は請求できないかもしれません。
そこで、不倫自体がなくても、直接会ったり、電話・メール・LINE等で連絡をしたりすることを禁止し、そのことで未然に不倫を防止するのが接触禁止条項の役割です。
どのような接触が禁止されるか?
接触禁止条項によって禁止されるのは以下のような接触です。
- 面談=直接会うこと
- 電話
- メール
- LINE
具体的にどのような接触が禁止されるかは、接触禁止条項の文言によって決まります。
この点については、接触禁止条項の文例を紹介するところで詳しく解説します。
接触禁止条項の違約金の相場は?
接触禁止条項の違約金について法律・裁判例等で明確に決まっているわけではありません。
そのため、違約金は当事者同士が合意をすれば自由に決めることができます。但し、あまりにも高額すぎる違約金は無効とされる場合があります。
ここでは、不倫慰謝料問題を多数扱ってきた弁護士の目線で、どの程度であれば合意できることが多いかという実務上の感覚で解説します。
接触をした場合
不倫相手と直接会ったり、連絡をしたり等の接触をした場合は10万円から50万円程度が違約金の相場です。
通常、違約金は接触がある度に生じるとされます。つまり、接触回数×10~50万円程度が違約金となります。
具体例
- 示談書において「連絡をした場合 1回につき10万円」、「直接接触をした場合 1回につき30万円」と定められていた
- 10回連絡を取っていて、1回は直接会ってデートした
このような場合であれば、10万円×10回+30万円×1回=130万円の違約金が生じることになります。
再度、不貞行為をした場合
示談後に再度の不貞行為をした場合は100万円以上の違約金が設定されます。
300万円~500万円程度の違約金が設定されることも珍しくはありません。
接触禁止条項における違約金は、損害賠償額の予定であると考えられています(民法420条)。慰謝料は配偶者が被った精神的苦痛という損害を賠償するものであるため、具体的にどのような精神的苦痛を被ったかに応じて金額が決まります。しかし、違約金の定めがあると、接触禁止条項違反でどのような苦痛という損害が生じたかに関係なく、原則として違約金通りの損害が生じたと推定して事前に定められた金額を支払う義務が生じるのです。
高額すぎる違約金が無効とされた裁判例
接触禁止条項の違約金相場に規制はありませんが、当事者が合意してもあまりに高額すぎる違約金は無効とされる場合があります。
具体的には、面会・連絡をした場合は150万円程度、再度不倫をした場合は500万円~1000万円程度が違約金の上限だと思われます。
慰謝料の相場からすると、面会・連絡だけで150万円、不貞行為で1000万円というのは極めて高額なものです。したがって、慰謝料を請求された側としては安易に違約金の定めに応じると損をする可能性が高いのでご注意ください。
面会・連絡をした場合の裁判例
東京地裁平成25年12月4日判決
連絡・面会をした場合に1000万円を支払う旨の違約金の定めがあった事案で、150万円の限度で違約金の効力を認めた。
再度の不倫をした場合の裁判例
東京地裁平成17年11月17日判決
不倫をしたら5000万円を支払う旨の違約金の定めがあった事案で、1000万円の限度で違約金の効力を認めた。
東京地裁平成29年9月27日判決
1回の不貞行為に対する慰謝料としては高額だとしながらも、500万円の違約金条項を有効とした。
なぜ違約金が無効となるのか?
裁判所は、いくら当事者が合意をしても、一定金額以上の違約金は公序良俗に違反するため無効である(民法90条)と考えているようです。
違約金の定めが無効とされた場合、違約金が生じないわけではありません。裁判所が妥当と認める限度の金額で違約金の効力が認められます。
したがって、高額すぎる違約金は無効になるだろうから合意しても問題ないと考えるのは危険です。
坂尾陽弁護士
接触禁止条項は拒否できるか
不倫の示談書を締結する段階で接触禁止条項を定めることを求められた場合、これを拒否することは出来るのでしょうか。
結論から言えば、接触禁止条項を拒否することができます。ここでは接触禁止条項を拒否できる理由やメリット・デメリットを説明します。
接触禁止条項を拒否できる理由
接触禁止条項を拒否できるのは、接触禁止条項は当事者同士が合意することが要件となるからです。
つまり、慰謝料の示談や和解が決裂した場合には、接触禁止条項は定められません。逆に言えば、裁判所が判決で慰謝料を定めるときは、慰謝料の金額以外に再度の連絡・不倫をするなと禁止することは通常ないのです。
接触禁止条項のメリット・デメリット
慰謝料を請求された側の立場で言えば、接触禁止条項はデメリットだらけの不利な条項です。
しかし、慰謝料減額の交渉・和解が決裂する覚悟をもって拒否すれば、接触禁止条項が生じることはありません。
そのため、接触禁止条項のメリット・デメリットを踏まえて交渉・和解を考える必要があります。
慰謝料の請求が猶予される可能性
接触禁止条項に合意すれば、不倫慰謝料の請求を猶予すると言われることがあります。
この場合、不倫を辞めれば慰謝料が請求されなくなるためメリットがあると言えます。
もっとも、口約束だけでなく示談書で請求の猶予が有効に定められているか確認しなければなりません。
慰謝料の減額材料となる
また、接触禁止条項に合意することを慰謝料の減額材料とすることも考えられます。
しかし、再度の不倫・接触をしないことは当たり前だと相手が考えていると、接触禁止条項を理由に慰謝料減額を求めると不倫をしたのに誠意がないと怒らせる場合もあります。
裁判を起こされなくなる
不倫慰謝料の問題が裁判沙汰になることを回避した場合は、接触禁止条項に合意することで裁判を起こされなくなるメリットがあります。
裁判を起こしても判決になれば接触禁止条項は生じません。このことで、接触禁止条項を定める代わりに裁判沙汰にせずに穏便な解決をするよう説得できる場合があります。
許される接触の線引きが明確にできる
また、不倫をした配偶者と不倫相手の間でやむを得ず連絡を取り続ける必要があるときは、接触禁止条項を定めることで許される連絡と許されない連絡を明確に線引きできるというメリットもあります。
とくに社内不倫の場合は示談成立後も社用で連絡が必要なこともあります。接触禁止条項を定めてなければ、やむを得ず連絡を取らざるを得なかったとしても、「また不倫をしているのでは?」と不倫をされた側に疑心暗鬼を生じさせることがあります。
接触禁止条項において、例えばプライベートで2人きりでは連絡を取らないものの、職場の懇親会等に同時に出席することは許容されることを合意しておけば、仮に職場の飲み会で一緒になったとしても不倫の冤罪をかけられる心配がありません。
接触禁止条項において、禁止される連絡とやむを得ず連絡を取って良い例外事情を定めておくことは、不倫をした側にとってもメリットがあると言えます。
接触禁止条項の文例
接触禁止条項に合意する場合、次に問題となるのが接触禁止条項の文言です。
一般的な接触禁止条項の文例を紹介し、注意点やポイントを解説します。
一般的な文例
乙(不倫相手)と丙(不倫をした配偶者)は、本合意書締結日後、面会、電話、メール、LINE、SNSその他いかなる手段によっても一切連絡・接触しない。
接触禁止条項の例外について
接触禁止条項の文例には、「正当な理由がない限り」等の例外が定められているものもあります。
このような場合、正当な理由とは具体的に何かを巡って解釈が争われるリスクがあります。
例外を定める場合には、どのようなケースが例外に当たるのかを事前に確認する必要があります。
社内不倫では一切連絡・接触しないとの文言は避ける
社内不倫で慰謝料を請求された事案では、接触禁止条項において一切連絡・接触しないとの文言は避ける必要があります。
なぜなら、例えば社内で懇親会があったり、会社の用事で緊急の連絡をとったりするような場合にも、文言上は接触禁止条項違反となるため違約金を請求されるリスクがあるからです。
判断基準となるのが良い文言
接触禁止条項の文例を参考にするときは、自分の行動の判断基準になるかどうかにご注意ください。
示談書を見たときに、連絡・接触のうちで許されるもの、許されないものが分かるのが良い文言です。
もし不安がある場合には、不倫問題に強い弁護士に示談書をチェックして貰うようにしましょう。
坂尾陽弁護士
接触禁止条項の文例がインターネット上では多数公開されています。しかし、弁護士が公開している文例だから安心というわけではありません。その弁護士が慰謝料を請求する側・請求された側のどちらを多く扱っているかによって、どちらに有利な接触禁止条項の文例なのかは違います。とくに慰謝料を請求された側にとっては、非常に不利となる接触禁止条項の文例が公開されていることも少なくないのでご注意ください。
離婚後も接触禁止条項の効力はあるか
接触禁止条項は婚姻関係を継続する場合に定められます。そして、接触禁止条項を定めたとしても、夫婦が離婚した後は効力を失うと考えられます。
離婚後に不倫当事者同士が肉体関係を持ったとしても、不貞行為には該当しません。そして、接触禁止条項は不貞行為を未然に予防するものであるため、不貞行為が生じない以上は接触禁止条項も無効になると考えられるからです。
離婚後は夫婦関係にない他人同士なわけなので、元配偶者の交際関係に口を出したり、行動を制約したりすることを法的に強制するのは不当だというのは誰もが納得するところではないでしょうか。
社内不倫において接触禁止条項を定めるときは注意が必要
社内不倫で不倫が発覚しても職場を辞める必要はありません。そのため、社内不倫の場合は、不倫関係は解消するものの、同じ職場のまま働き続けるという解決になるケースが多いです。このようなときに安易に接触禁止条項を定めることにはリスクがあります。
社内不倫がバレたときは、不倫慰謝料の請求に加えて退職を要求されることがあります。しかし、社内不倫だからと言って退職する義務等は生じません。したがって、退職を要求されたときは毅然と拒否しましょう。
社内不倫の接触禁止条項の問題点
接触禁止条項の文言が「いかなる理由があっても一切の連絡を取ってはならない」というものであれば、業務上の必要で連絡を取らざるを得ないときでも形式的には合意書違反になってしまいます。
仮に、社内不倫を理由にどちらかが異動になったとしても、同じ職場で働く以上は業務連絡を取る可能性がゼロになるとは言い切れません。そのため、社内不倫の接触禁止条項では仕事関係でやむを得ず連絡を取る必要があることを前提とした記載にする必要があります。
社内不倫で接触禁止条項を定めるときのやり方
接触禁止条項の役割は不倫関係の再発を防止するためです。つまり、不倫に至る心配のない連絡を取ることは接触禁止条項と矛盾するものではありません。
他方で、不倫をされた側からは、同じ会社に配偶者の元不倫相手がいるのは耐えがたく不安なことでしょう。この点を接触禁止条項の文言で調整する必要があります。
具体的には、不倫を解決するときの示談において、どのような連絡を取る必要があるかを具体的に特定して定めることになります。
一般的には、不倫関係の再発に至るのは「プライベートで2人で会う」ような接触です。そのため、業務上の必要性があれば連絡を取って良いこととする、又は職場の歓送迎会や懇親会等の多数人が参加するときは接触をして良いこととする等が考えられます。
この点を上手く交渉することは弁護士の腕の見せどころと言えるでしょう。
接触禁止条項は不倫解決の最後の一歩
不倫慰謝料の交渉・和解において接触禁止条項は解決まで最後の一歩となります。しかし、接触禁止条項は色々な問題点も多いため、交渉・和解で揉めることも少なくありません。
接触禁止条項までくれば解決まであと一歩です。最後まで油断せずに慎重に対応しましょう。
この記事では、接触禁止条項について、
- 接触禁止条項の意味や役割、禁止される接触の内容
- 違約金の相場は10~50万円程度で、高額すぎる違約金は無効となる
- 接触禁止条項はメリット・デメリットを踏まえて拒否するか決めるべき
- 一般的な接触禁止条項の文例とその注意点
- 離婚後は接触禁止条項の効力は失われる
- 社内不倫では接触禁止条項の文例をどのように工夫するべきか
等について解説しました。是非、不倫問題を解決するために参考にしていただければと思います。